本記事は一般的な情報の整理です。税額・要件の当てはめは個別事情で変わります。実行前に必ず税理士・税務署・司法書士・市区町村窓口にご確認ください。
空き家の売却方法は「手取りの式」で決まる|結論
【シミュレーション】同じ800万円の空き家でも手取りは最大163万円変わる

- 売却価格:800万円(古家付き土地として売却)
- 取得費:契約書が残っておらず不明 → 概算取得費5%=40万円(国税庁 No.3258)
- 仲介手数料:低廉な空家等の特例により税込33万円(国土交通省 報酬告示改正・2024年7月1日施行)
- 印紙税:1万円
- 解体費:150万円(木造30坪×坪5万円で試算。ケースにより計上の有無が変わります)
- 税率:長期譲渡所得20.315%(国税庁 No.3208)
| ケース | ①売却価格 | ②取得費(5%) | ③譲渡費用 | ④特別控除 | ⑤課税譲渡所得 | ⑥税額(20.315%) | ⑦手取り |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A:3,000万円控除あり(相続人1〜2人) | 800万円 | 40万円 | 34万円 | 3,000万円 | 0円 | 0円 | 766万円 |
| B:控除あり・相続人3人以上(2,000万円) | 800万円 | 40万円 | 34万円 | 2,000万円 | 0円 | 0円 | 766万円 |
| C:控除なし(昭和57年以降建築 or 3年期限切れ) | 800万円 | 40万円 | 34万円 | 0円 | 726万円 | 約147.5万円 | 約618万円 |
| D:控除なし+低未利用土地100万円控除のみ | 800万円 | 40万円 | 34万円 | 100万円 | 626万円 | 約127.2万円 | 約638万円 |
※③譲渡費用=仲介手数料33万円+印紙税1万円。解体して更地で売る場合は、ここに解体費150万円が加わり、課税所得と手取りの両方が下がります(ケースCで解体した場合、手取りは約498万円まで落ちます)。 ※金額は上記前提での試算です。住民税の課税年度や他の所得との関係で実際の負担は変わります。
- AとCの差は約148万円。売り方は同じでも、控除が使えるかどうかだけでこれだけ動きます。さらに解体の要否まで含めると、最大163万円規模の差になります。
- AとBの手取りは同額。令和6年1月1日以後の譲渡では相続人が3人以上だと控除額は2,000万円に縮みますが(国税庁 No.3306)、譲渡益が2,000万円未満なら結果は変わりません。縮小が効いてくるのは高額物件です。
- Dの100万円控除でも、Cとの差は約20万円にとどまる。控除の本命はあくまで3,000万円です。
他の記事の多くは、仲介手数料を通常上限の「800万円×3%+6万円+税=29.7万円」で計算しています。しかし2024年7月1日以降、800万円以下の空家等では税込33万円まで受領可能です(国土交通省)。つまり安い空き家では、特例のほうが手数料が高くなる逆転が起きます。実質の手数料率は4.1%です。この特例は売主への事前説明と合意が前提とされているため、媒介契約前に「報酬はいくらか」を必ず書面で確認してください。
【判定チャート】3,000万円控除が使えるか5問で確認する
| ルート | 条件 | 効果・コスト | 目安 |
|---|---|---|---|
| X-1 低未利用土地100万円控除 | 譲渡年1月1日時点で所有5年超/都市計画区域内/譲渡価額500万円以下(市街化区域・用途地域内等は800万円以下) | 譲渡所得から100万円控除 | 市区町村の「低未利用土地等確認書」が必要 |
| X-2 買取・空き家バンク | 仲介で買い手がつかない | 買取は価格が下がるが確実性が高い/空き家バンクは自治体経由で移住希望者に届く | 自治体窓口・買取業者 |
| X-3 相続土地国庫帰属制度 | 建物を解体し更地にしたうえで、引き取り手がない土地 | 負担金は原則20万円(市街化区域等の宅地は面積に応じ算定) | 法務局へ申請 |
X-3は「申請すれば必ず国が引き取る」制度ではありません。法務省の統計(令和8年7月16日公表)によると、令和8年6月30日時点で申請5,698件に対し帰属は2,885件、却下83件・不承認93件・取下げ1,063件です。取下げの内訳は「有効活用の見込みが生じた」562件、「却下・不承認であることが判明」375件。最後の砦として期待しすぎないことが大切です。
相続 空き家 売却 税金|取得費が分からない問題が手取りを決める
空き家 解体 固定資産税|「更地で6倍」を正確に理解する
- 判定は1月1日時点 — 固定資産税は毎年1月1日時点の状況で課税されます。年内に売却・引き渡しが完了する見込みなら、その年の1月1日をまたぐ前に解体するかどうかで負担が変わります。解体のタイミングは、売却スケジュールとセットで設計してください。
- 家屋分の税は消える — 更地化で土地の税額は上がりますが、建物にかかっていた固定資産税はなくなります。増加分は「土地の増加 − 家屋分の減少」で見るのが正確です。
- 解体しなくても特例が外れることがある — 国土交通省によると、令和5年12月13日施行の改正空家法により、放置すれば特定空家等になるおそれのある空き家を市区町村長が「管理不全空家等」として指導・勧告でき、勧告を受けた土地は固定資産税・都市計画税の住宅用地特例が解除されます。「解体しなければ安いまま」とは限りません。
総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査(確報集計・2024年公表)によると、2023年10月1日時点の空き家は899.5万戸、空き家率13.8%で過去最多。うち賃貸・売却用および二次的住宅を除く空き家(いわゆる放置空き家)は385.6万戸で、2018年比36.9万戸増、総住宅数の5.9%にあたります。放置空き家は増え続けており、行政の関与も強まる方向にあります。
空き家 売却 費用|何にいくらかかるかを実額で押さえる
| 費用項目 | 目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| 仲介手数料(通常) | 売買価格×3%+6万円+消費税(400万円超の場合の上限) | 国土交通省の報酬告示による上限 |
| 仲介手数料(低廉な空家等) | 一方から30万円=税込33万円が上限(価格800万円以下) | 令和6年7月1日施行。売主への事前説明・合意が前提 |
| 印紙税 | 売買金額に応じ数千円〜数万円 | 契約書に貼付 |
| 相続登記費用 | 司法書士報酬+登録免許税 | 売却の前提。後述の義務化に注意 |
| 解体費 | 木造30坪で150万円前後(坪5万円で試算) | 自治体の補助金がある場合あり |
| 測量・境界確定 | 内容により変動 | 境界未確定だと売却が止まることがある |
| 譲渡所得税・住民税 | 課税譲渡所得×20.315%(長期) | 控除適用で0円になり得る |
【チェックリスト】売却前に集める「手取りを守る」証拠15項目
| # | 集めるもの | 無いとどうなるか |
|---|---|---|
| 1 | 当時の売買契約書・領収書 | 1〜4が全滅すると概算取得費5%固定=課税所得が最大化 |
| 2 | 住宅ローンの金銭消費貸借契約書 | 購入価格を推計する material を失う |
| 3 | 登記簿の抵当権設定額 | 借入額から購入価格を推計する材料がなくなる |
| 4 | 通帳・振込記録 | 支払いの裏付けが取れない |
| 5 | 建築確認済証・検査済証 | 昭和56年5月31日以前建築かの判定ができず控除可否が不明 |
| 6 | 固定資産税課税明細書 | 評価額・課税状況が把握できない |
| 7 | 過去のリフォーム・増改築の請負契約書 | 資本的支出を取得費に加算できない |
| 8 | 測量図・境界確認書 | 境界未確定で契約が止まる可能性 |
| 9 | 越境の有無の確認 | 引き渡し後のトラブルになりやすい |
| 10 | 相続登記の完了確認 | 名義が故人のままでは売却できない(令和6年4月〜義務) |
| 11 | 被相続人居住用家屋等確認書の申請先・必要書類・交付日数 | 交付が間に合わず控除の申告ができない |
| 12 | 電気・ガス・水道の閉栓証明 | 空き家であったことの証明が弱くなる |
| 13 | 遺産分割協議書と相続人の人数 | 3人以上なら控除は2,000万円(令和6年1月1日以後の譲渡) |
| 14 | 火災保険の空き家契約への切替状況 | 引き渡しまでの事故で無保険になる恐れ |
| 15 | 解体を行う場合、1月1日をまたぐかの確認 | 住宅用地特例が外れた状態で年を越し、固定資産税が増える |
空き家 売れない 処分|値がつかない場合の出口を成立確率で比べる
| 出口 | 成立しやすさ | コスト | 押さえる点 |
|---|---|---|---|
| 価格の見直し・古家付きで再募集 | 高い | 追加費用なし | 不動産情報ライブラリで近隣の成約価格を確認する |
| 買取 | 比較的高い | 価格は仲介相場より下がる | 数週間で現金化できる場合がある |
| 空き家バンク | 地域による | 自治体により無料〜低額 | 移住希望者に届く。自治体窓口へ |
| 低未利用土地100万円控除を使って売る | 条件次第 | 確認書の取得手続き | 譲渡価額500万円以下(市街化区域・用途地域内等は800万円以下) |
| 相続土地国庫帰属制度 | 低い(申請5,698件に対し帰属2,885件) | 負担金原則20万円+建物解体費 | 建物は解体して更地にする必要がある |
「今すぐ契約しないと損をする」と急かす相手とは、契約を急がないでください。いったん持ち帰り、別の専門家や自治体の窓口に意見を求めることが、身を守る基本です。
空き家売却の進め方|控除の期限から逆算する5ステップ
| ステップ | 主な作業 | 期間の目安 | この記事ならではの注意 |
|---|---|---|---|
| ①期限と控除の確認 | 相続開始日から3年期限を計算/5問チャートで判定 | 1週間 | 期限が近いなら買取も含めて検討 |
| ②証拠集め・相続登記 | 15項目チェックリスト/司法書士へ依頼 | 2〜6週間 | 登記が終わらないと売れない |
| ③売り方と解体時期の決定 | 古家付きか更地か/解体は1月1日をまたぐか | 1〜2週間 | 原則、買い手が決まるまで解体しない |
| ④会社選び・売り出し | 複数社査定/媒介契約(報酬額を書面確認) | 1〜3か月 | 800万円以下は税込33万円が上限 |
| ⑤契約・引き渡し・申告 | 特約(耐震改修・除却の実施者)を明記/確認書申請/翌年に確定申告 | 1〜2か月 | 除却は翌年2月15日まで |
| 媒介契約の種類 | 複数社への依頼 | 自分で買主を探す | 報告義務 |
|---|---|---|---|
| 一般媒介 | 可能 | 可能 | なし |
| 専任媒介 | 不可 | 可能 | 2週間に1回以上 |
| 専属専任媒介 | 不可 | 不可 | 1週間に1回以上 |
売主は、引き渡した物件に契約内容と異なる欠陥(雨漏り・シロアリ・地中埋設物など)があった場合、「契約不適合責任」を負う可能性があります。古い空き家では、知っている不具合を契約書に記載し、責任の範囲や期間を取り決めておくことが大切です。また、相続人が複数いる場合は、売り出す前に全員で方針を合意し、書面に残しておいてください。
よくある質問
本記事は公表されている一次情報をもとに一般的な整理を行ったものであり、個別の税額・法的手続き・契約条件を保証するものではありません。税制の要件は改正されることがあります。実際の売却にあたっては、税理士・税務署・司法書士・土地家屋調査士・宅地建物取引士などの専門家や、お住まいの自治体窓口に必ずご確認ください。
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)」(2024)
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」
- 国税庁 タックスアンサー No.3258「取得費が分からないとき」
- 国税庁 タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
- 国税庁 タックスアンサー No.3226「低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除」
- 国土交通省「宅地建物取引業法関係(報酬告示の一部改正)」(2024年7月1日施行)
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について」
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計(令和8年7月16日公表)」
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)
最終確認日:2026年8月4日




