実家の農地を相続したら、まずやることは3つです。①所有不動産記録証明書で農地の全筆を特定する ②農業委員会へおおむね10か月以内に届出する ③法務局へ3年以内に相続登記する、この順番です。
そのうえで必ず突き当たるのが「この農地を最終的にどうするか」という出口の問題です。手続きだけ終えて放置すると、遊休農地の勧告を受けて固定資産税が約1.8倍になることもあるとされています。
この記事では、農林水産省・法務省・国税庁の公表資料をもとに、全筆の特定 → 期限内の手続き → 出口6択の比較 → 10年コスト試算 までを一本の流れで整理します。相続放棄すれば農地から解放される、という広く信じられている誤解にも正面から答えます。
手続きの期限は「届出おおむね10か月・登記3年」の2本立てです。ただし本当に難しいのは期限の後にくる出口の選択で、そこには数十万円単位の差が出ます。
まず何をすべき?実家の農地を相続した直後の3ステップ
最初にすべきは、農地の全筆の特定です。次に農業委員会への届出(おおむね10か月以内)、そして相続登記(3年以内)へ進みます。この順序を守ると、あとから漏れた農地が出てくる事態を防げます。
多くの解説記事は「登記と届出の2つが必要」から始まります。しかし実務でつまずくのは、その手前の「実家に農地が何筆あるのか分からない」という入口です。
ステップ1:農地の全筆を特定する(2026年2月開始の新制度)
結論として、所有不動産記録証明書を請求すれば全国分をまとめて確認できます。
法務省・旭川地方法務局の案内(2026年)によると、所有不動産記録証明制度が令和8年(2026年)2月2日から運用を開始しました。所有権の登記名義人本人のほか、その相続人その他の一般承継人が請求でき、手数料は書面1通1,600円です。最寄りの法務局窓口またはオンラインで請求できます。
なぜこれが重要かというと、従来よく使われた固定資産税の課税明細書には落とし穴があるためです。免税点未満の土地や非課税地は明細に載らないことがあり、課税明細だけでは農地の全容を掴めないケースがあります。небольшой面積の畑が数筆、明細から抜け落ちたまま何年も気づかれない、という事態が起こり得ます。
「固定資産税の通知に載っている土地がすべて」という前提は危険です。特に実家が遠方で、親が生前に相続した先代名義の農地が残っている場合、名寄帳や課税明細では拾いきれないことがあります。
ステップ2:戸籍を集める(広域交付で実家が遠方でも可)
結論として、2024年3月から最寄りの市区町村窓口で出生〜死亡の戸籍をまとめて取得できます。
日本司法書士会連合会の解説(2024年)によると、戸籍証明書等の広域交付が令和6年3月1日に開始され、本籍地以外の最寄り市区町村で被相続人の出生から死亡までの戸籍を一括請求できるようになりました。実家の本籍地が遠方の農村部でも、居住地の窓口で完結します。
ただし制約があります。請求者本人が窓口に出向く必要があり、郵送請求・代理人請求はできません。平日に窓口へ行けない場合は、従来どおり本籍地への郵送請求や司法書士への依頼を検討します。
ステップ3:期限を逆算してカレンダーに落とす
結論として、届出はおおむね10か月、登記は3年、旧相続分は2027年3月末が最終ラインです。
| 手続き | 提出先 | 期限 | 怠った場合 |
|---|---|---|---|
| 農地法3条の3の届出 | 農業委員会 | 権利取得を知った日からおおむね10か月以内 | 10万円以下の過料 |
| 相続登記 | 法務局 | 相続を知った日から3年以内 | 10万円以下の過料 |
| 旧相続(2024年4月1日前発生)の登記 | 法務局 | 2027年(令和9年)3月31日まで | 同上 |
出典:農林水産省 農地相続ポータル(2026年)、農林水産省 農地の相続等の届出リーフレット(2024年)、法務省(不動産登記法76条の2・164条)
全筆特定(1,600円)→ 戸籍収集(広域交付)→ 届出10か月・登記3年。この3ステップを終えて初めて、出口の検討がスタートラインに立ちます。
農地の相続手続きはなぜ2本立てなのか?主な原因を深掘り

農地は「不動産としての権利」と「農地としての利用」を別々の法律が管理しているため、法務局と農業委員会の2か所に届ける必要があります。片方だけでは完了しません。
原因1:登記は権利、届出は農地の利用状況を把握するため
結論として、農業委員会の届出は課税や許可のためではなく、地域の農地の所有者を把握するためのものです。
農林水産省の農地相続ポータル配布資料(2025年)では、本届出は法務局への相続登記とは別に必要な手続であると明記されています。農業委員会は地域の農地台帳を管理しており、誰が今その農地を持っているかが分からないと、遊休農地の指導も担い手へのあっせんもできません。
通常、農地の売買や贈与には農地法3条の許可が要ります。しかし相続は当事者が選んで取得するものではないため、許可ではなく届出で足りるという制度設計になっています。農地法3条の3がその根拠です。
原因2:届出は「人単位」で必要(共有相続の落とし穴)
結論として、兄弟3人で共有相続したら、届出も3人それぞれが出す必要があります。
静岡市農業委員会の案内(2025年)によると、共有で相続した場合は相続人それぞれが人単位で届出を行う必要があります。「代表者が1枚出せば済む」と思い込んで、他の相続人が過料の対象になりかねない点です。
手数料は無料で、窓口提出のほか郵送も可能です(静岡市・酒田市 農業委員会)。酒田市の案内(2025年)では、添付書類として登記完了証の写しまたは登記事項証明書の写しなど、相続したことがわかる書類を求めています。
届出書の様式は市町村ごとに異なります。「○○市 農地 3条の3 届出」で検索すると、ほとんどの自治体がPDF様式を公開しています。手数料無料・郵送可なので、遠方でも自力で完結できる手続きです。
原因3:登記を放置すると出口が全部閉じる
結論として、相続登記が未了だと売却も貸付も国庫帰属も申請できません。
名義が被相続人のままだと、買主に所有権を移せず、農地バンクとの契約主体にもなれません。相続土地国庫帰属制度も、申請できるのは相続等で土地を取得した相続人であり、登記の裏付けが前提になります。
さらに費用面の追い風もあります。法務局の告知(2026年)によると、個人が令和9年(2027年)3月31日までに相続による所有権移転登記を受ける場合、不動産の価額が100万円以下であれば登録免許税が課されません。申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」と記載します。
農地は評価額が低いことが多く、1筆100万円以下に収まるケースが少なくありません。通常は固定資産税評価額の0.4%がかかるところ、この免税措置に当てはまれば登録免許税ゼロで登記できます。
農林水産省の農地相続ポータルには「令和7年3月末まで」と旧期限のまま記載が残る箇所があります(2026年8月時点)。免税措置の期限は法務局の告知で最新の令和9年3月31日を確認してください。
農地 相続 相続放棄で本当に手放せる?誤解の見分け方
結論として、相続放棄をしても農地の管理義務から即座に解放されるとは限りません。放棄時にその農地を現に占有していた場合、引き渡しまで保存義務が残るとされています。
見分け方1:「現に占有していたか」が分岐点
結論として、判断基準は放棄した時点でその財産を現に占有していたかどうかです。
雲南市の空き家対策協議会資料(2022年)で整理されているとおり、改正民法940条1項(令和5年4月1日施行)は、相続放棄をした者が放棄の時に相続財産に属する財産を「現に占有している」ときに限り、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、自己の財産におけると同一の注意をもって保存する義務を負うと定めています。
つまり、実家に同居していて庭続きの畑を管理していた人が放棄しても、次の引受先へ引き渡すまでは義務が続くという構造です。逆に、遠方に住んでいて一度も足を踏み入れたことのない農地であれば、現に占有していたとは言いにくくなります。
見分け方2:清算人選任には予納金がかかる
結論として、引き渡す相手である相続財産清算人を選任するには、家庭裁判所への申立てと予納金が必要になります。
保存義務を終わらせるには清算人へ引き渡す必要がありますが、その清算人は自動的に現れません。誰かが家庭裁判所に選任を申し立て、予納金を納める必要があります。金額は事案により幅があるため、家庭裁判所や弁護士・司法書士への確認が必要です。
見分け方3:放棄は「いいとこ取り」ができない
結論として、相続放棄は農地だけを選んで捨てることができません。
放棄すると、実家の建物・預貯金・その他すべての財産を含めて相続人でなくなります。「農地だけ要らない」という動機で放棄すると、預貯金や自宅も失います。
「農地が要らないから相続放棄」は、多くの場合いちばん高くつく選択です。放棄でプラスの財産も失ったうえに、現に占有していれば管理義務は残り、清算人選任の予納金も必要になります。手放すことが目的なら、まずは後述の国庫帰属や農地バンクを検討する順序が現実的です。
農地 相続 したくない人の具体的な解決方法(出口6択の比較)
結論として、出口は「自作・農地バンクに貸す・3条許可で売る・転用して売る・国庫帰属・放置」の6つです。法務省統計では国庫帰属の農用地の帰属実績は925件あり、農地でも通っています。
出口6択 徹底比較表
| 出口 | 初期費用 | 年間ランニング | 期間の目安 | 法的ハードル(根拠) | 固定資産税 | 納税猶予との相性 | 落とし穴 | 実績データ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ①自分で耕す | 農機具・資材費 | 農地の維持管理費 | 即日 | なし(相続取得済み) | 通常の農地課税 | ◎ 猶予の前提 | 終身営農が原則 | 集積率62.1%の裏で自作は減少傾向 |
| ②農地バンクに貸す | 実質なし | 実質なし(賃料収入あり) | 借り手待ちの期間が必要 | 機構との契約 | 3〜5年間 1/2軽減 | ○ 特定貸付け等で継続可 | 借り手がつかない地域もある | 機構経由の集積 約25.9万ha |
| ③3条許可で農家に売る | 仲介・登記費用 | 売却まで維持費 | 数か月〜 | 農地法3条許可(全部効率利用・農作業常時従事 年150日以上・地域調和) | 売却後は不要 | × 猶予は打ち切り | 買主が3要件を満たせず不許可 | 下限面積要件は2023年4月撤廃済み |
| ④転用して売る | 造成・申請費用 | 転用完了まで維持費 | 半年〜数年 | 農地法4条・5条許可。農振農用地区域内は原則不可 | 転用後は宅地並み課税 | × 猶予は打ち切り | 改正で報告条件付与が義務化 | 令和6年法律第62号で規制強化方向 |
| ⑤相続土地国庫帰属 | 14,000円/筆+負担金(田畑原則20万円) | 承認後はゼロ | 審査に相応の期間 | 要件審査あり | 帰属後は不要 | × 猶予は打ち切り | 取下げ1,063件 の現実 | 農用地 申請2,226件・帰属925件 |
| ⑥何もせず放置 | 0円 | 固定資産税+草刈り外注費 | — | なし | 勧告後は約1.8倍 | × | 不法投棄・近隣トラブル | 荒廃農地 25.7万ha |
出典:法務省 相続土地国庫帰属制度の統計・負担金・概要(2026年、令和8年7月16日現在の速報値)、農林水産省 令和7年度の農地中間管理機構の実績(2026年6月16日公表)、農林水産省 遊休農地に関する課税強化・軽減措置(2024年)、農林水産省 荒廃農地の現状と対策(2024年12月)、広島県 農地法第3条許可について(2025年)、国税庁 タックスアンサーNo.4147(2025年)
出口2:農地バンクは「税が下がる唯一の選択肢」
結論として、農地バンクへの貸付は固定資産税が3〜5年間2分の1に軽減される、6択で唯一の減税ルートです。
農林水産省の農地中間管理機構関連税制によると、一定期間の貸付で最初の3年間または5年間、固定資産税・都市計画税が2分の1になります。放置が約1.8倍に増えるのと真逆の方向です。
農林水産省のプレスリリース(2026年6月16日公表)によると、令和7年度の担い手への農地集積率は全耕地面積の62.1%に達し、農地バンク創設前と比べて13.4ポイント増加、機構による集積面積は約25.9万haとなっています。制度としては実際に動いています。
「貸すと返ってこないのでは」という不安をよく聞きますが、農地バンクは契約期間が定められた貸付です。相続税の納税猶予との関係でも、特定貸付け等であれば猶予を継続できるとされています(国税庁 タックスアンサーNo.4147)。
出口3:売却は「下限面積撤廃」でも自由売買ではない
結論として、下限面積要件は撤廃されましたが、買主側の3要件は今も残っています。
福島市の告知(2023年)のとおり、農地取得の下限面積要件(都府県50a・北海道2ha)は令和5年4月1日から撤廃されました。小面積の相続農地でも買い手を探しやすくなった点は前進です。
ただし広島県の解説(2025年)によると、農地法3条許可の主な基準として全部効率利用要件・農作業常時従事要件(原則年間150日以上)・地域調和要件は存置されています。隣に住む非農家の会社員に自由に売れるわけではありません。「面積制限がなくなったから誰でも買える」という理解は誤りです。
出口5:国庫帰属は「農地は無理」ではない
結論として、法務省統計では帰属2,885件のうち925件(約32%)が農用地で、農地でも一定数が承認されています。
法務省の統計(2026年、令和8年7月16日現在の速報値)によると、申請5,698件(うち農用地2,226件)に対し、帰属2,885件(うち農用地925件)、却下83件・不承認93件・取下げ1,063件です。「農地は難しい」で終わらせている解説が多いなか、実数を見ると農用地が帰属全体の約3割を占めます。
一方で取下げ1,063件も見逃せません。申請後に要件を満たさないと分かって取り下げる例が相当数あるということです。審査手数料は土地一筆当たり14,000円で、却下・不承認・取下げでも返還されません(法務省 相続土地国庫帰属制度の概要 2026年)。
負担金は土地の種目と区域に応じて算定され、田・畑は原則20万円です。ただし市街化区域・用途地域内、農用地区域内、土地改良事業施行区域内の農地は面積に応じた算定になります。なお法務省の案内では、隣接する同一種目の2筆以上は1つの土地とみなして負担金の算定を申し出られるとされており、複数筆をまとめる余地があります。
負担金は「まとめられる」が審査手数料は「筆ごと」です。3筆なら手数料は14,000円×3=42,000円かかる一方、隣接する田3筆なら負担金は20万円ベースにまとめられる可能性があります。この非対称性は事前に押さえておく価値があります。
ケース別の対処:田3筆(計30a)を10年で試算するといくら違う?
結論として、放置と国庫帰属を比べると、初期に約24万円を払う国庫帰属が数年〜十数年で放置を下回る計算になります。分岐点は年間維持費の大きさで決まります。
試算の前提
以下は考え方を示すためのモデル計算です。固定資産税評価額や草刈り外注費は地域差が大きいため、ご自身の課税明細と地元業者の見積りに置き換えてください。
- 対象:田3筆・計30a(農振農用地区域内、隣接)
- 年間の固定資産税:T円
- 年間の草刈り外注費:M円
- 勧告を受けるまでの年数:n年(勧告後は税が約1.8倍)
3つのシナリオの10年累計
①放置した場合
計算式:`10年累計 = T×n + 1.8T×(10−n) + M×10`
農林水産省の資料(2024年)によると、農業委員会が農地中間管理機構との協議を勧告した農業振興地域内の遊休農地は、固定資産税評価で限界収益修正率0.55が適用されず、結果として通常農地の約1.8倍の課税になります。仮に3年目に勧告を受ければ、4年目以降の7年間は1.8倍で計算します。
これに加えて、不法投棄や隣地への雑草・害虫被害といった金額化しにくいリスクが乗ります。荒廃農地は令和6年3月末時点で25.7万ha、うち再生利用が可能なものは9.4万haです(農林水産省 2024年12月)。時間が経つほど再生費用は膨らみます。
②農地バンクに貸した場合
計算式:`10年累計 = T×10 − (T÷2)×軽減年数 − 賃料×10`
固定資産税は3〜5年間2分の1になり、草刈り費Mは借り手が耕作するため実質不要になります。さらに賃料収入がマイナス方向に効きます。6択のなかで唯一、10年累計がマイナス(=収支プラス)になり得るルートです。
③相続土地国庫帰属を使った場合
計算式:`初期費用 = 14,000円×3筆 + 負担金20万円 = 242,000円`/`11年目以降は0円`
審査手数料42,000円と負担金20万円(田・畑の原則額。農用地区域内は面積按分で算定)で、承認されれば以後の負担はゼロになります。
損益分岐年の求め方
国庫帰属が放置を下回る年数は、次の式で求められます。
`242,000円 ÷(年間の固定資産税+草刈り外注費)= 損益分岐年`
仮に固定資産税と草刈り費の合計が年3万円なら、242,000 ÷ 30,000 ≒ 8.1年で国庫帰属のほうが安くなる計算です。年5万円なら約4.8年、勧告後に税が1.8倍になれば分岐はさらに早まります。
「放置は無料」という感覚が最大の誤りです。年3万円の維持費でも10年で30万円、勧告を受ければそれ以上です。国庫帰属の24万円は高く見えて、10年スパンでは逆転する可能性があります。
ただし国庫帰属は申請すれば通るとは限りません。取下げ1,063件という数字は、要件確認を怠って手数料を捨てた人が相当数いることを示しています。申請前に法務局へ事前相談することを強くおすすめします。
農地 相続 農業委員会 届出のやり方と再発防止のコツ
結論として、届出は手数料無料・郵送可・様式は市町村のサイトからダウンロードでき、多くの場合は自力で完結できます。次世代に同じ問題を残さない工夫もセットで進めます。
届出の手順(5ステップ)
- 農地の所在地を管轄する農業委員会(原則、市町村役場内)のサイトで「農地法第3条の3の届出書」の様式を入手する
- 届出書に取得者の氏名・住所、農地の所在・地番・地目・面積、取得の事由(相続)、取得日を記入する
- 相続したことがわかる書類(登記完了証の写しまたは登記事項証明書の写し等)を添付する(酒田市 2025年)
- 共有相続の場合は相続人それぞれが個別に作成する(静岡市 2025年)
- 窓口または郵送で提出する。手数料は無料
届出は登記の完了を待つのが通常の流れですが、おおむね10か月という期限は権利取得を知った日から進行します。遺産分割が長引きそうな場合は、早めに農業委員会へ状況を伝えて相談してください。
再発防止:次の相続で同じことを繰り返さないために
結論として、農地の一覧と出口の方針を「書き残す」ことが最も効果的な予防策です。
- 所有不動産記録証明書を取得したら保管する:1,600円で得た全筆リストは、次の相続でそのまま使える資産になります
- 遺産分割で農地の承継者を1人に絞る:共有にすると届出も人数分必要になり、売却や国庫帰属で全員の同意が要ります
- 農地バンクとの接点を作っておく:借り手探しには時間がかかります。使う予定がないなら早めに相談しておきます
- 相続人申告登記を活用する:遺産分割がまとまらない場合、単独で申出でき登記義務を履行できます(法務省 2024年)
共有相続は、届出の手間・売却の同意・次世代でのねずみ算的な相続人増加という3つの負債を生みます。実家の農地は「誰が引き受けるか」を1人に決めることが、最大の予防策です。
専門家・公的情報の見解:どこに相談すればいいか
結論として、農地の実務は農業委員会、権利と登記は司法書士、税は税理士と国税庁の資料が一次的な拠り所になります。無料で使える窓口から始めるのが合理的です。
農地を相続したときは、その農地の所在地の農業委員会に届出が必要です。相続登記は相続を知った日から3年以内(義務化前の相続は令和9年3月末まで)。手放したい場合は相続土地国庫帰属制度・農地バンクへの貸付・売却(原則、農業委員会の許可)が選択肢となります。
— 農林水産省 農地相続ポータル(2026年)
農林水産省の配布資料(2025年)では、相続したが地元を離れて管理できない場合の相談先も案内されています。まずは所在地の農業委員会へ電話する、という一歩がもっとも費用対効果が高い行動です。
農業を継ぐなら相続税の納税猶予を検討する
結論として、農業を継続する相続人には納税猶予がありますが、途中でやめると利子税付きで打ち切られます。
国税庁 タックスアンサーNo.4147(2025年)によると、相続税の納税猶予制度は農業を継続する農業相続人が対象で、猶予税額は原則として終身営農または特定貸付け等の継続によって免除されます。ただし途中で譲渡・転用・耕作放棄をすると猶予が打ち切られ、利子税とともに納付することになります。
「とりあえず猶予を受けて、数年後に売ればいい」という発想は成立しません。この制度を使うかどうかは、実質的に一生分の営農を約束できるかの判断になります。適用の可否と影響額は、必ず税理士に個別確認してください。
制度の適用要件は個別事情で大きく変わります。この記事の内容は2026年8月時点の公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の判断は農業委員会・司法書士・税理士など専門家へご相談ください。
農地 相続 費用でやってはいけないNG対応
結論として、最も損をするのは「何もしない」「調べずに申請する」「農地だけ捨てようとする」の3つです。いずれも数万円〜数十万円の実損につながります。
NG1:届出も登記もせず放置する
届出を怠ると10万円以下の過料(農林水産省 農地の相続等の届出リーフレット 2024年)、登記を怠っても10万円以下の過料(法務省 不動産登記法76条の2・164条)です。両方怠れば二重にリスクを負います。さらに登録免許税の免税措置(価額100万円以下・令和9年3月31日まで)を逃す機会損失も生じます。
NG2:事前相談なしに国庫帰属を申請する
審査手数料14,000円/筆は、却下・不承認・取下げでも返還されません。取下げが1,063件という統計は、この落とし穴が現実に起きていることを示しています。法務局の事前相談を必ず経由してください。
NG3:「農地だけ要らない」で相続放棄する
放棄はプラスの財産も含めた全部放棄です。しかも改正民法940条により、放棄時に現に占有していれば引き渡しまで保存義務が残ります。放棄しても管理から解放されないうえ、預貯金や実家も失うという二重の損失になりかねません。
NG4:「下限面積が撤廃されたから誰でも買える」と考える
買主には全部効率利用・農作業常時従事(原則年150日以上)・地域調和の3要件が残っています。買主が見つかったつもりで話を進め、3条許可が下りずに白紙に戻る例が起こり得ます。売買契約は3条許可を停止条件とするのが基本です。
NG5:転用をあてにして計画を立てる
農振農用地区域内の農地は原則として転用できません。さらに新日本法規のPICKUP法令改正情報(2024年)によると、令和6年法律第62号により転用許可時に転用完了までの実施状況を農業委員会経由で報告させる条件の付与が義務化され、原状回復命令に従わない違反転用の公表制度も創設されます。規制は緩む方向ではなく、締まる方向です。
費用面で本当に怖いのは、手続きの手数料ではありません。放置による税の1.8倍化、要件を確認しない申請での手数料没収、そして誤った相続放棄による財産喪失です。いずれも事前の無料相談で防げます。
よくある質問
農地の相続手続きは自分でできますか?
農業委員会への届出は自分でできる方が多いです。手数料無料・郵送可で、様式は市町村のサイトから入手できます。一方、相続登記は戸籍一式・遺産分割協議書・固定資産評価証明書などの収集が必要で、相続人が多い場合や先代名義が残っている場合は司法書士への依頼が現実的です。
農業委員会への届出をうっかり忘れて10か月を過ぎたらどうなりますか?
まずは速やかに農業委員会へ連絡してください。農地法3条の3では、届出をしない場合や虚偽の届出をした場合に10万円以下の過料と定められています(農林水産省 2024年)。ただし期限は「おおむね10か月以内」とされており、事情を説明して遅れて提出する運用が一般的です。放置して指摘を待つより、自分から相談するほうが確実です。
農地の相続にかかる費用は総額いくらですか?
手続きだけなら、届出は無料、相続登記の登録免許税は評価額の0.4%(価額100万円以下の土地は令和9年3月31日まで非課税)です。加えて戸籍等の取得費と、司法書士に依頼する場合の報酬がかかります。費用の本体はむしろ出口側で、国庫帰属なら審査手数料14,000円/筆+負担金(田畑は原則20万円)、放置なら固定資産税と草刈り費が毎年続きます。
実家に農地が何筆あるか分かりません。どう調べますか?
2026年2月2日に運用が始まった所有不動産記録証明制度を使ってください。相続人が法務局に請求すると、被相続人名義の不動産を全国分まとめて証明でき、手数料は書面1通1,600円です(法務省・旭川地方法務局 2026年)。固定資産税の課税明細は免税点未満の土地などが載らないことがあるため、これだけに頼らないことをおすすめします。
農地を相続放棄すれば固定資産税もかからなくなりますか?
放棄すればその農地の所有者ではなくなりますが、管理から即座に解放されるとは限りません。改正民法940条1項(2023年4月1日施行)により、放棄の時にその財産を現に占有していた場合は、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで保存義務を負うとされています。清算人の選任には家庭裁判所への申立てと予納金も必要です。手放すことが目的なら、国庫帰属や農地バンクの検討を先に行うほうが現実的です。
まとめ:期限を守り、10年で判断する
実家の農地の相続は、次の順番で進めます。
- 全筆を特定する:所有不動産記録証明書(1通1,600円、2026年2月運用開始)で漏れをなくす
- 農業委員会へ届出:おおむね10か月以内、無料・郵送可、共有なら人数分
- 法務局へ相続登記:3年以内(旧相続は2027年3月末)、価額100万円以下は登録免許税が非課税
- 出口を決める:自作/農地バンク(税1/2軽減)/3条許可売却/転用/国庫帰属(14,000円/筆+原則20万円)/放置(勧告後1.8倍)
判断の物差しは10年です。維持費が年3万円なら、国庫帰属の約24万円は8年ほどで逆転する計算になります。「放置は無料」という感覚を捨てるだけで、選択肢の見え方は変わります。
次の一歩は、所在地の農業委員会への電話と、法務局の事前相談です。どちらも無料で、この記事のどの判断よりも確実な情報が得られます。
本記事は2026年8月時点で公表されている農林水産省・法務省・国税庁・各自治体の資料に基づく一般的な情報整理です。制度の適用可否や税額は個別事情により異なり、統計は速報値を含みます。実際の手続きにあたっては、所在地の農業委員会、司法書士、税理士など専門家へご相談ください。
最終確認日:2026年8月7日




